令和5年度事業方針

1.農業・農政及び組織をめぐる情勢と課題

 我が国の農業・農村の現場は、農業就業者の高齢化や担い手不足、農地の荒廃、国際化の進行による競 争の激化など、極めて厳しい状況にあり、農業生産額が減少するとともに、基幹的農業従事者の減少や高齢化の進展、耕作放棄地の増加等が顕著になる中で、農業構造の改革、新規参入の促進が喫緊の課題となっている。

昭和40(1965)年度に73%だった日本の食料自給率は、令和3(2021)年度には38%となり、長期的に低下している。農業者数は、およそ60年の間に約6分の1にまで減少、平均年齢は68歳と高齢化が顕著であり、地域農業の担い手不足が懸念されている。農地面積においては、耕作されずに放置・荒廃してしまった農地の増加や宅地などへの転用によって、約4分の3に減少するなど、日本の農業を取り巻く状況が大きく変化している。

新型コロナウイルス感染症の終息が見えない中、昨年2月に始まったロシアによるウクライナへの侵攻や異常な物価高騰など、平時とは言えない状況が続いている。こうした影響によって、農業においても生産資材価格や燃油価格等の高騰に加え、米価の低迷により不安定な事態が続いており、明確な食料安全保障の確立が急務となっている。

このような情勢の中、政府は昨年9月に岸田総理を本部長とする「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」を立ち上げ、新しい資本主義の下、「スマート農林水産業」「農林水産物・食品の輸出促進」「農業水産業のグリーン化」「食料安全保障の強化」の4本柱で農林水産政策を大きく転換していくことを明らかにした。

また、昨年5月に成立した農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律が、令和5年4月1日から施行され、「人・農地プラン」が「地域計画」として法制化、基盤法の農用地利用集積計画をバンク法における農用地利用集積等促進計画への統合、農業委員会の地域計画における目標地図素案の策定、農地法第3条の農地取得の「下限面積」要件の撤廃等が実施される。

農業委員会系統組織は今回の改正を踏まえ、農業・農地の持続的な発展・維持を図るため、農業委員と農地利用最適化推進委員の資質向上及び現場での一層の連携の取り組みを支援するとともに、農業委員会には農業者や農村地域の声を農政にしっかり反映させることが求められていることから、今後とも農業者のみならず関係機関・団体の期待に応えるため、以下の事業に取り組むこととする。

2.事業推進の重点方針

1)新・農業委員会制度の下での組織・活動体制の整備強化

 市町農業委員会の活動実態の把握・情報の共有化、組織の課題・問題点を把握して必要な対応に努める。また、農業委員会活動への的確な助言や相談活動の円滑な推進を図るため、農地制度の仕組みや農地利用の最適化を推進する活動などの情報提供、農業委員・農地利用最適化推進委員及び市町農業委員会職員等を対象とした研修会の開催、市町農業委員会が主催する研修会等を支援する。さらに、農業委員・農地利用最適化推進委員一人一人の活動強化を重点に事業推進を図る。

2)農地利用の最適化に向けた取り組みの推進

「農地利用最適化推進指針」の策定に当たっては、委員の担当地域の実情を踏まえた目標設定の支援を進めるとともに、農業委員会における農地の利用状況調査(農地パトロール)、利用意向調査の計画的な実施を支援する。その際、委員の日々の活動記録を記帳する活動記録簿による「委員の活動の見える化」を市町農業委員会と農業委員会ネットワーク機構である農業会議、全国農業会議所及び関係機関で情報を共有し、農地所有者等への意向調査と「目標地図」素案の作成、「目標地図」の実現に向けた取り組みを強力に推進する。

3)農業者・地域の声をくみ上げた政策提案活動の推進

農業委員会ネットワーク業務の実施を通じて得られた知見に基づき、農業委員会が農地等の利用の最適化の推進に関する事務をより効率的かつ効果的に実施するため、関係行政機関等に対し、農地等利用最適化推進施策の改善について意見を提出する。また、農業会議構成団体組織である農業経営者組織、農業法人、認定農業者等の生の声や要望をくみ上げ、農業・農業者の代表機関として、農政活動を推進する。

4)農業経営の確立と新規就農・人材育成等の支援強化

農業簿記記帳や青色申告の啓発・普及、農業経営の法人化等の推進、家族経営協定の啓発・普及、農業者年金の加入促進を農業経営者組織の自主的な組織活動と連携しながら継続し、担い手の確保・育成及び経営確立に向けた支援を強化する。また、新規就農・人材育成については引き続き「新規就農相談事業」や、「雇用就農資金事業」等を通して、農業への就業の定着と将来の担い手として自立できるよう支援する。

5)農業・農業者等に関する情報提供活動の強化

農地利用最適化推進の横展開、農業施策の普及・浸透等を図るため、全国農業新聞・全国農業図書の普及・活用を推進するとともに、農業委員会だよりや市町広報誌・ホームページを通して、農業者のみならず幅広く情報の提供に努める。